行け、子どもたち 「まひる」 カイは僕の名前を呼んだ。ルイおじさんの書斎のソファに寝転がっていたのだけど、それを咎めるために呼んだわけではない。もしそうだとしたら、僕はいつもカイに咎められなければならないだろう。ここで本を読んで、気に入りのソファでごろりと寝そべる。それは僕の大事な日課なのだ。 専務がにゃあと鳴いた。僕の腕にごろごろと擦り寄ってくるのは、専務と名付けられた猫だ。専務と名前を付けたのは鼻の下にひげのような黒の模様があるから。白黒のぶち猫で、愛想がいい。この猫を拾ったのはほんの少し前のことで、その時はまだもっと小さくて、何をするにも誰かの手を借りなければならなかった。僕は、専務が朝起きたら死んでいるんじゃないかと思って眠れなかった。カイは「うちで面倒見るよ」と言い、立派な家に連れて帰った。叱られたそうだが、カイは僕に何も言わなかった。僕はカイにハグをした。他にあげられるものがなかったので。 「何」 「専務。妖一さんが見たいって言ってなかったっけ」 「ああ、うん。今日借りて帰っていい?」 「構わないよ、車で送る」 僕はあくびをして、体をううん、と伸ばした。カイは笑って、どっちが猫だかわかんないぞ、と言った。 ぱたぱたと揃って階段を下りる。ぐるぐると目が回りそうな階段は、螺旋階段と言うのだそうだ。カイの家はお金持ちで、とても大きい。カイにお金持ちって大変だね、と言ったことがあった。掃除なんかがとても大変そうだ。 「おら、ちび共!そろそろ車出すぞ!」 「ルイおじさん」 「おじさんは止めろっつたろ」 「じゃあルイ」 「…呼び捨てかよ、まあ何でもいいけどよ」 「4段目までは全部読んじゃった。新しい段に移ってもいい?」 「おーおー好きにしろ」 「ありがと」 ルイおじさんに手を伸ばした。するとしゃがんでくれたので、僕は目いっぱい手を伸ばして、ルイおじさんにハグとキスをした。カイはしなくていいのに、と言うんだけど、これは母さんが教えてくれた挨拶だから、僕は守らなければならないことのひとつなのだ。 「メグさん、専務借りるね」 「いいよ、たっぷり遊んでやりな」 「うん、ありがと」 「おい、真昼」 「うん?」 「何でこいつのことはさん付けで呼ぶんだよ」 「だってメグさん怒ると怖いもん、僕一回叱られてからもう絶対怒らせないようにしようと思ったの」 カイとルイおじさんは、2人して、うんうん、と頷いた。ルイおじさんは長い手をにゅっと伸ばして僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。お前は利口だな、確かにコイツは怒らせんなよ、こええから、とひそひそ声で僕に耳打ちをする。僕はこくこくと頷いて、おじさんと指切りをする。 車の窓からルイおじさんとメグさんが手を振るのが見える。角を曲がって見えなくなるまで、車の中で手を振り続けた。見えなくなってから、僕はふう、と息をついて、座席に腰を下ろした。 「見えなくなったか」 「うん、もう見えない」 「律儀だな、まひるは」 「別に律儀じゃないよ、普通だよ」 「いーや、普通じゃない。それにうちの親にそこまでする必要ないだろ」 「そういうもの?」 「そうさ」 「ふうん」 「…解ってないな」 「うん、解らない」 「もうちょっと手、抜けば」 「手」 「そう、手」 「無理だよ」 「どうして」 「だって抜くほど力入れてない」 「ふうん」 「解ってないだろ」 「ああ、解んないな」 「おんなじさ」 「…おんなじか」 「そう、同じ。僕とカイが全然違っても、おんなじさ」 「???やっぱりお前、麒麟児かもな」 「きりんじ?」 「麒麟児」 「きりんじ」 「漢字、解ってないだろ」 「うん全然」 「そ、さっきオヤジが言ってたろ、まひるは利口だって」 「聞こえてたの」 「耳はいいんだ」 「あっそ」 「オヤジも語彙が貧弱だからさ、利口って言ったけど、お前みたいのはもう何ていうかなそういうレベルじゃないんだよ、オレから見ればね」 「カイから見た僕はきりんじなんだ」 「そうさ」 「そっか」 「オレは?」 「カイ?」 「どう見える」 「うーん…怒んないで聞いてよ」 「ああ」 「ええとね」 「うん」 「狡猾」 「…」 「違った?」 「いいや」 カイはにやり、と笑った。あんまりおじさんとおばさんの前では見せない顔で、僕といるときだけ、こんな顔をすることがある。父さんにその話をしたら、そりゃ俺似かもしれねえな、と同じような顔で笑っていたっけ。 車が、大きなカーブに差し掛かって、そこそこ大きな家の前で止まる。コンクリートを打ち付けたままの、僕の家。 専務が入ったバッグを抱き締めて、カイに小さくキスをした。これもさようならのキス。カイは、あまり他のやつにやらないでほしいと言った。それがどういう意味なのかが解るのは、もう少し、後の話。 Fin |
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「Strob FIC」30000ヒット企画の際にリクエストしてゲット! まひるとカイの会話+専務の特別出演という好きなものいっぱいにつめこんだリクをしていまいました。 青木さん、ありがとうございます! 捏造家族ものなので、僭越ながら、補足を… まひる→蛭魔とまもりのお子さん カイ→ルイルイとメグさんのお子さん まひるとカイの関係は、私的にどツボです。 |
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