さくらまう


廊下から忍び込む鼻を擽る煙った香りに、沈んでいた意識がゆっくり浮上した。
体の底では先程までの快楽の残りが重くて疼いて、指の先までぐったりと力を失わせている。
まもりの意識が覚束なくなるまで抱いていた男の腕は未だ抱き込むように
腰に回されたままだった。
行灯の灯を浴びて頬に影を落とす長い睫を瞬かせ、まもりは碧い瞳だけを巡らせて
薄暗い部屋の中を窺った。
その視線がふと、障子の向こうに縫い止められた。
言うことを聞かない身体を叱咤して、枕に背を預けるようにして体を起こす。
薄く筋肉の乗った腕をそっと除け、砕ける腰を騙し騙し、中途半端に乱された着物を
胸元で掻き寄せて、畳に手をついて窓辺のほうに膝を運ぶ。
指を這わせた紅い格子に熱を孕んだ頬wpくっつけるようにすると、三味線の音と
男女の戯れる笑い声が微かに聞こえてきた。
町の通りからの賑わいが、薄い障子越しに伝わる。
音もなく障子を引けば、空から零れ落ちんばかりの満月に照らされ、通りが、家屋が、咲き誇る桜の木々が皆白銀に濡れそぼち、思わずまもりは小さく溜息を吐き、
その息もまた、夜の凍えた空気を白く染めた。
夜の闇にただ埋もれて普段は気にも留めなかったことが、こんなにもまもりの意識を
惹き付ける。
気付かされたのは、様々な人間が集うこの街であってもその奇抜さに目を引かれずに
いられない、金色の髪を逆立てた男が、まもりの時間を買うようになってからだった。
自分を売り渡す、線香一切り分の時間を。

「どうした?」

不意に飛んだ声と肩に置かれた手にも驚くことなくゆるゆると振り返ると、
眠っていたはずの男が目を眇めて煙管の煙を燻らせていた。
もう肌に馴染んだ落ち着く香り。
たいして力も入ってなかったが、まもりは引き寄せられるままに肩に頭を押し付け
ると、
そのまま共にゆっくりと後ろに倒れこんだ。
開け放したままの障子から風に乗って吹き込んだ桜の花弁がひらひらと部屋中に
降り積もっていく。
手にしたままの煙管の煙が立ち上る中、金の糸のような髪の上にも。
肌蹴た胸元に散らされた赤い痕にも彩りを添えるように。
まもりは縋るように鈍色の着物を掴むと、頭上の男を見上げて小さく笑った。

「桜が綺麗ね」
じょてぃーぬ・水屋ナヨキさまよりの頂き物です。
10000hitリクエストを描いたら、逆に返された、という
己は1年以上待たせたというのに3日もたたぬうちに返された、という
是じょてぃぬたる所以なり
こちらの後編にあたるおはなしも[mizya]にありますので、是非見ろこんにゃろー
自分の描いたものでこんな匂いたつような文章を編み出してもらえるなんてやっぱり幸せ!
水屋さんいつもいつもいつもいつもありがとう。これからもよしなに。


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