緑に爪


爪を塗ってやろうか、と言われたのも驚いたが、さらに彼の持ってきた色を見て驚いた。
表現は陳腐だが、まるで池のような赤。
そのような激しい色は、彼は意外にも好まないはずだ。

「どうしたの、それ」
「気が向いた」

蛭魔はそれだけ言うと、ソファの上で膝を抱えるまもりを前に、床に腰を下ろした。

「そう」

彼がそう言うのならば、きっとそうなのだろう。
他の女がいる、ということが無いのは当たり前のように分かっていたので、まもりは大人しく手を出した。

爪に筆が当てられ、ひやりとした感触がする。

「ベースは塗らないの?」
「後で落とすからいいだろ」

その落とすまでに必要なのでは、とちらりと思うが口は挟まず、細長い指が動くたびに染まっていく真紅の爪を黙って眺めていた。
小指、最後の一筋を塗り終えると、蛭魔は何も言わずにまもりのふくらはぎを掴んだ。
そのまますうと撫で下ろした手の平でそっと踵を包み込むと、目線の高さまで軽く持ち上げる。

足元に跪いて行われるその仕草はまるで、神聖な物を崇めるようだ。

そう思ってしまった瞬間、まもりは心臓を掴まれたような感覚に襲われた。

ああ、お願いだから気付かないで。
無駄と分かりつつもそう祈るしかなかった。

だってこの男のことだ、きっと分かっていてやっていたのだろう。
その証拠にほら、長い睫を伏せたまま一度も顔を上げなかったのに、最後の指を塗り終えた蛭魔はにやりと笑ってこう言ったのだ。

「欲情したろ?」
「!」

どうしてこの男はこうなのだ。
真っ赤になって反論できずにいるまもりを尻目に、蛭魔はマニキュアの瓶の蓋を閉めながらしれっと続けた。

「別に構わねえ、俺もしてる」
「え?」

とん、と小瓶をテーブルに置くと、蛭魔は勢いよくソファに乗り上げた。
倒れこむまもりの片足を肩に、もう片方の足をソファの背もたれに引っ掛け、自由を奪う。

「やだちょっと、マニキュア!まだ乾いてないのに!」
「あとで塗りなおす」
「そうじゃなくて、付いちゃう!服とか、ソファとか・・・っ!」

必死の抗議は途中から蛭魔の口の中に吸い込まれて消えた。
後はもう、吐息が充満するばかりだ。

革のソファ食い込む手を、背もたれでゆらゆらと揺れる足を、荒い息を吐きながら蛭魔は眺めていた。

深緑のソファに真紅の爪。
それは楽園に成る林檎のように美しく、妖しく魅力的で。

予想以上にそそられる。

「・・・どうしたの?」
「いいや、別に」

満足げに笑みを零すと、再び蛭魔は腕の中の禁断の果実に齧り付いた。

水屋ナヨキさんのサイト「ミズ屋」30万HIT記念企画『OH!SITE11』のNO,8としていただきました!
水屋さん30万ヒットおめでとうございます!これからもミズ屋の発展をねがっております。
・・・指ってエロいよね爪ってエロいよねたまらんです。
わりと茫洋としたサイト名なので、みなさん独自に想像にお任せで!
本当にありがとう水屋さん。すごいですよ、女帝の名を冠する人だよ。

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